透明なパレットに何色もの色を重ねて

学校では苗字か《シロ》
家ではねえね、お姉ちゃん、お前。


名前があっても誰も呼んでくれない。
忘れていた。
私にもちゃんと名前があったこと。



「あんたの名前教えてよ。一番に覚えるから」


「……忘れてたよ、名前。呼ばれることがないから。いろは。私の名前は白石彩葉(いろは)です」


色とりどりの葉っぱ。
それが私の名前。
久しぶりに口に出したかもしれない。


「彩葉。いい名前だな。あんたが忘れても、俺が覚えてる。また、明日な。彩葉」


彼はそう言い残し、改札を抜けていった。
一度も振り返ることはなかったけれど、
返ってよかったかも。


だって、今私の頬は熱を帯び、
きっと真っ赤に色をつけているに違いない。


高校に入って初めて、
しあわせな気持ちになったかもしれない。


ニヤニヤとにやけそうになる顔をなんとか抑えて、私も改札を抜けた。
< 18 / 24 >

この作品をシェア

pagetop