恋を乞う。








俺の幼馴染は
私立桜ヶ丘の上国際高校一の美少女だ。
そのかわいらしさときたら、凄まじい。
一度街を歩けば、スカウトの声が途絶えないほどに。
容姿端麗、才色兼備、幼馴染贔屓のメガネを外したとしても、そう感じるだろう
その上、誰にでも敬語で礼儀も弁えつつ、どこか人懐っこい。
性格も良しな完璧少女だ。
だが、誰にでも秘密があるように、彼女にも皆には言えない三つの秘密がある
まず一つ目
さっきも言ったが、彼女は誰にでも基本的に敬語を使っている
先生、生徒、先輩、同級生、正に誰にでも、だ。
俺は二歳も年上、例外ではないはずだ。
表向きは、人当たりも良く、口が良いということになっている
コノヤロー、とか
アンタ、とか
絶対いわないだろうな、と周りが噂するほど

「聞いてんのかコノヤロー。アンタって私の話いっつも聞いてませんよね」

本当は一言で周りの噂をぶち壊すような気性の荒さで、これがまず彼女の隠している秘密の一つ。

可愛らしい見た目からは想像できないような口の悪さ、だが嫌わないで頂きたい
いくら口が悪くても性格は悪くない、それどころか肝を抜くほどの純粋な女の子だ
彼女がなぜ今のように口が悪くなったのか、それは彼女の育った環境にある。

俺が越してきた当時、彼女がまだ三歳だった頃の話だ
彼女の親は、両親ともに海外勤めで家に居なかった。
俺も片親で、その父さえ単身赴任をしていたために引っ越してきたのは実質俺と俺の姉の二人だけで
彼女がいつも一人で居ることに気づいた姉は、俺に一緒に遊ぶようにと優しく言った。
生来姉の言葉を無視できない俺は、渋々彼女と遊ぶようになった
だけど、俺も五歳
家の近くに見つけた剣道の道場に行きたくて仕方がなかった。
ある日俺は彼女を連れ、姉に内緒でそこへ行った。

そこの人が心底いい人で、金も持たない俺たちに稽古をつけてくれた。
ぶっとんだ話だが、姉の言いつけも守りたい、剣術の道場にも行きたい、という五歳の俺の行動力が生んだことだ。
毎日ふたりでそこに通い、大きくなるうち彼女は周りの門下生の口真似をするようになってしまった。
小さな頃は今のように髪も長くなかった彼女を少年だと勘違いした人が、ふざけて教えたのもあるらしい。

彼女は以来ずっとその話し方を続けていたのだが、そんな彼女にも転機が訪れた
俺が中学二年のとき、彼女が小学校六年生になった頃
最低な教師が小さな彼女に心無い発言をした

「話し方を直しなさい、気分が悪い。」

泣きながら俺の家を訪ねてきた彼女に姉が教えたのが今の彼女の話し方だ。
今は亡き姉と同じような話し方、敬語である程度距離を保ちつつ人と接するのは、返って良かった。
教師に言われた日から髪も伸ばし始めた彼女はいよいよ女の嫉妬の対象、だが姉の教えた話し方のおかげで、人から性格を詰られることはなくなったという。
そうして外では敬語、俺の前でだけ所々昔の口の悪さが残っているというわけだ。
まあ、このアンバランスな感じがなんとも可愛らしくて俺のお気に入りだ

皆に隠していることのうち、もっとも大きなことは二つ目だろう

「前に男の人が居るんで、もうちょっと右側歩いてくださいよ」

彼女は俺以外の男に触れることも触れられることもできない
男性恐怖症だ。
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