シンデレラは騙されない


「ダメ…です。
車の中で、なんて…」

凛様は体を上げて外の様子を見ている。
そして、嬉しそうにまた私にキスをした。

「向こう側に一台停まってるけど、他は誰もいない。
俺的には大丈夫な気がするけど」

凛様はこんな時でも強引じゃない。
普通だったら、勢いや自分の欲望だけでセックスをしてしまう人が多いのに。
可愛い凛様は、こうやっていつだって私にお伺いを立てる。
私が嫌な思いをしないように、いつでも気にかけてくれている。

「でも、ちゃんとした大人は、車の中じゃしないです」

「俺ってちゃんとした大人じゃないの知らなかった…?」

ああ言えばこう言う状況の凛様が可笑しくて、私は凛様に軽くキスをした。

「ちゃんとした大人になって下さい」

大きなおやつの骨を目の前に置かれて待てと言われている子犬みたいに、凛様はやり切れない顔をする。
そんな凛様を見ていると、生真面目な自分がちょっと嫌いになった。

「キスだけだったら、いいですよ」

「くちびるだけ…・?」

私は顔を赤らめた。
凛様ってたまに子供みたいに意地悪になる。

もう言葉は要らない。
凛様の好きなようにしてあげる。
私が嫌がる事は、凛様は決してしないはずだから。

車の二人きりの空間に私達は身を委ねる。
いつか、誰の事も気にせずに堂々とデートができる日を夢見て。




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