私は強くない
都築の言う通りだ。
今の俺じゃ、降格に対してなんの手立ても出来ない。
ましてや、人事部へ異動する事なんて、思いもよらなかった。
都築は、人事部なら営業部ほど、女性を重視される事がないのを分かっているから、言ってくれているんだろう。

「考えさせてくれるか?」

「おう、よく考えてくれ。名取、お前の気持ちも分かるが、俺も倉橋を潰したくないんだ」

「分かってるよ 、都築の言いたい事は。俺も倉橋の力を潰したくはないからな」

それから、悩んで出した結果が、人事部への異動だったんだよな。すぐに俺からの推薦って形で倉橋の異動が決まった。
案の定、倉橋からは毎日のように話に納得が出来ない、営業部に戻して欲しい、って。

おまけに、専務の娘婿も営業部に配属された。主任として。
元々営業畑じゃないから、ほぼ役に立たなかったけど。ってか、今も入った頃に比べると使える奴にはなったけど、主任のままだ。

その結果、今じゃ、都築の右腕だ。
俺の目は間違ってなかった。
やっぱり、あいつは仕事が出来る。
だからこそ、あの時、都築に倉橋を任したんだ。
それが、今度は営業部にって、都築から言われるとは。

俺としては、営業部には戻ってきてくれるなら、願ってもない事だ。樫原が抜けた後は、やっぱり仕事が出来る奴にいてほしい。
営業で頑張ってきた、奥菜に係長を、と思っていたが、ここで倉橋の名前が上がってくるなんて。あの時、押し込んだ気持ちが蘇ってくる。
これは、俺にとって願ってもないチャンスかもしれない。

ん?チャンス?なんのチャンスなんだ。自問自答する。

ふっ。

自称気味な笑みが出てきた。


あいつには彼氏がいるんだぞ。
何を考えてるんだ、俺は。
仕事の事を考えよう。

最善策を。





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