私は強くない
ん、よく寝た。
って、…頭が痛い、昨日飲みすぎたのかな。


あれ、身動きが取れない。なんで、誰かに身体をがっちりガードされてる感が…。
顔を上げると、そこには素で眠る名取課長が…、一緒に飲んでたまでは覚えてるけど。


な、なんで名取課長に抱かれてるの、私。
すぐに自分の身体を触って、確認をする。

「…よかった、脱いでない」

「う、う…ん」

ゴソゴソしたせいで、名取課長が起きてしまった。

「ん、起きたのか?」

「あ、あの名取課長。こ、これは…」

名取課長に抱かれたまま、顔を上げて確認する。

まだ寝ぼけていたのか、上目遣いで見る私と目が合った名取課長が取り乱した。

「うわ、悪い。倉橋、や、やましいこ、事はしてないからなっ」

慌てふためく、名取課長を初めて見たような気がして、くすっと笑ってしまった。

「名取課長、そんなにテンパらないで下さいよ。私もいい年した大人ですよ。責任取れとか言いませんって」

「…いや、…取りたい…かも」

「え?」

「あ、いや、なんでもない。よく眠れたか?」

名取課長は、いつもの柔かな笑顔を見せながら、腕を解いてくれた。

「久しぶりに寝た!って感じです。昨日はご迷惑をかけてすみませんでした」

ベッドの上で、正座し頭を下げた。
名取課長から、泣いていいよ、と言われた私は、張り詰めていた糸が切れた。
止めようと思っても、止めれなかった。溢れ出てくる涙を止める事は出来なかった。

名取課長に甘えてしまっても、いいのか分からなかったけど、誰かにいいんだよ、って言って欲しかったのかもしれない。

「どうした?」

考え事をしていると、心配そうに名取課長が顔を覗き込んできた。
慌てて、

「見ないで下さいよ、化粧もはげちゃってるのに…」

両手で顔を隠すと、その手を握られ、

「倉橋は化粧なんかしなくても、綺麗だし、魅力的だよ」

「え、あ、…」

名取課長から言われた事のない言葉を聞いてしまって、お酒も抜けているのに、顔が赤くなるのが分かった。

「名取課長、恥ずかしいです…」

「あ、あ、すまん。悪い」

慌てて、重なった手を引っ込める名取課長。
お互い、ベッドの上で顔を真っ赤にしていた。
そして、どちらともなく顔を見合わせて笑った。


「朝メシって、昼か、どうする?」

「あ、私、作りますよ。ご迷惑じゃなかったら。お世話になったし」

「悪いよ、そんな…」

「いいんです。作らせて下さい」

「そうか、じゃ頼もうかな。買い物はどうする?」

「この近くに、スーパーありますか?」

「あるけど、お前そのままで出るのか?」

「え?あ…」

一晩泣き続けた私の顔は、見事な事になっていた。

「シャワー借りてもいいですか?」

「お、おう。いいよ。タオルは風呂場にあるやつ使ってくれていいよ」

「じゃ、借りますね」

そう言うと、ベッドから降りた私は、お風呂場に行った。
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