独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
少し離れた場所にいる柿元さんには、私たちが見つめあっているように見えるだろう。その証拠に、パシャパシャと遠くでシャッター音が聞こえる。

「ほ、誉め言葉としていただいておきます」
なぜか火照っていく頰を隠すように俯く。

「下を向いたらちゃんと映らないだろ! しっかり顔を上げろ!」
そんな私の気持ちに気づかずに叫ぶ副社長。
前言撤回。ああもう、やっぱりこの人はとても口が悪い。

普段とはまったく違う一日を送ったせいで私は疲労困憊だった。そんな私をからかいながら、山盛りの荷物とともに彼は私を自宅まで送り届けてくれた。

両親に事情を説明するという副社長を必死の思いで引き留めて、帰ってもらった。まったく、どう説明するつもりなんだろう。彼の考えがいまいちよくわからない。

すっかり変身した私を見て呆気にとられる母に、気分転換だ、と苦しまぎれに説明した。大量の荷物は梓のおさがりをもらったと言い訳して、自身の部屋に運び込む。

さすがに婚約者のふりを引き受けました、とは言えない。いくら肝の据わった母でもそれには驚愕するだろう。

詮索好きでやたら勘の鋭い兄と姉が不在だったことが幸いだった。
両親よりも心配症で過保護なふたりのことだ。真実を知ったら最後、外出禁止にされるか、一日中付きまとわれかねない。普段は寄ると触ると喧嘩している兄と姉だが、そういう時は意気投合してタッグを組むのだ。特に兄は容赦がない。
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