独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
むしろその吹聴した令嬢に恋人役を頼むか、本物の恋人になってもらえばいいのにと本気で思った。
その令嬢もわざわざ社長に確認するなんて、この二重人格の副社長をそれほどまでに想っているのだろう。

勝手に契約延長なんて知りません、と突っぱねようとした。すると、彼は見惚れるような笑顔を浮かべた。

「アンタ、契約書確認した?」
「読みましたよ、もちろん」

いきなり何を言ってるの?

「ここに突発的な事象が起きた場合は適宜対処するって記載があるだろ」
勝ち誇ったようにそう言って、ご丁寧に契約書の原本を取りだして綺麗な指で指し示す彼。

「はあ? 何を勝手な‼」
めいいっぱい反論するけれど彼は動じない。
私は自身の敗北を悟り、無言で彼に鋭い視線を向けた。

「どこまで行くんですか?」
柿元さんの運転する車の中で、私は右隣に座る副社長に尋ねる。声が少し不機嫌になってしまったのは仕方がないと思ってほしい。

夜の帳が降り始めた街並みを車窓から眺めていた彼は、ゆっくり私と目を合わせる。彼の薄茶色の瞳に私が映る。その瞬間、なぜか小さく鼓動が跳ねた。

まったくこの人は、無駄に顔立ちが綺麗すぎるのよ。話さなければ完璧な王子様なのに。
心の中で悪態をつく。

「以前に言っただろ、会社訪問だって。設楽の本社にアンタを連れて行くんだよ。親父が急遽明日から長期出張になったから、先にアンタの存在を伝えておこうと思って」
ニッコリ微笑むその様はまさに完璧な紳士。なのにその台詞はどこまでも傲慢だ。
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