独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「このマンション、設楽ホールディングスが手掛けたものらしいの。分譲された途端、即完売の人気物件だったって。大輝くんはB棟の最上階、副社長はA棟の最上階を購入したらしいの。確かにここは都内の一等地だし、駅からは十分かからないし最高の立地よね」
姉が歩きながら淡々と話す。

「お姉ちゃん、ここに来たことあるの?」
慣れた感じの姉に、恐る恐る尋ねる。

「うん、何回も。合鍵ももらってるし。将来はここに住むかもしれないからって」
ニッコリと動じずに微笑む姉はやっぱりすごいと変なところで感心してしまう。

「A棟は奥のエレベーターからしか行けないの。二棟はつながっていないから。地下のトランクルームは一緒なんだけど」
そう言って姉は私をA棟用のエレベーター前まで案内してくれて、エレベーターを呼ぶためにボタンを押す。

「鍵がないとエレベーターが呼べないの。じゃあ行ってらっしゃい! ママと蒼にはうまく言っておくからお泊りも大丈夫だからね!」
理解しがたいことを明るく言いながら、姉はやってきたエレベーターに私を押し入れる。目の前に広がる大きな鏡に、焦げ茶色の重厚感あふれる壁。

「泊まらないから! お姉ちゃん、私、あの人の部屋番号知らない!」
必死の抗議の声も虚しくエレベーターの扉が閉まる。

あっという間にエレベーターが上昇していく。液晶表示の階数をみるだけで怖くなる。

緊張して手が震える。仕事でもこんなことはないのに。私の心とは裏腹に軽快な音を立ててエレベーターが開く。

靴ごしに感じる柔らかなカーペットの感触。真正面にはガラスウォールがあり、近くなった空からの陽射しが燦燦と射し込む。
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