独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
私が考えていたことを言いきるこの人は本当にずるい。こんな言い方をされたら逃げ道が見つからない。

総務部での私はそれなりに仕事ができると言われてきたし、しっかり自分の矜持だって保っていた。なのにどうしてこの人の前ではその全てが機能しなくなるんだろう。

「それなら別に一緒に暮らさなくてもいいでしょ! 第一ここから職場には通いにくいし、家族に説明ができない!」
反論する私。

「俺が説明してもいいけど? 職場に通いにくくはないだろ?」
全く動じない。頭が痛くなる。

「代理婚約者を続けるにしても、今後親父たちの前でぼろを出さないために一緒に過ごす時間を増やすべきだろ? 同居したほうが一緒に過ごす時間も取りやすいし、便利だろ」
正論で来るあたりが本当に卑怯だ。

それでも必死に言い返して、結局毎週金曜日から週末は特に用事や約束事がない限り、ここで過ごすことになった。家族への説明を考えると頭が痛くなる。

「じゃあ橙花の必要なものを買い出しにいくぞ」
思案顔の私とは裏腹に、なぜか嬉しそうな彼がいきなり立ち上がる。

「何、なんで⁉ そんなものないから! 今度来るときに自宅から運ぶから!」
慌てて立ち上がって言う私に、彼が冷たい視線を向ける。

「婚約者の必要なものを用意するのは、俺の仕事だろ?」
耳元で色香のこもった声で囁かれる。思わず耳を手で押さえる。

「いらないから! もう横暴すぎる!」
叫ぶ私をクックッと笑う彼。
「本当、橙花といると飽きない」

絶対に面白がっている! もうあんな買い物地獄はこりごりなのに!

脳裏によみがえる先日の高級ブランド店での買い物。ああ、やっぱりこの人が理解できない。
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