結婚願望のない男

***

「『二度と会うこともない』は言い過ぎでしょぉっ!?」

私はチューハイの入ったジョッキを勢いよくあおった。

「よーし、もう一杯頼もうか!」

あっという間に空になった私のジョッキを見て、石田先輩はさっと店員を捕まえて「同じの!」と雑に注文した。

「僕の知らない間に変な男と出会って振られていたなんて…展開が早すぎますよ、品田さん」と言いながら、島崎くんも元気にビールをあおる。


ここは会社近くの安い焼き鳥屋。20代の若者よりもおじさん世代が愛用するような雰囲気の店だけど、会社帰りに気楽に立ち寄れるので、私たちはしばしばこの店を訪れる。
今日はこの店で、石田先輩の言う例の宴…『品田遥を励ます会』が石田先輩と島崎くんによって開催されたのだ。ただ、私にとってはもう課長に怒られたのは過去のこと。直近の衝撃的な出来事…言うまでもなく山神さんとの一瞬すぎる恋が終わったことを励まされる会になったのだった。


「レンタル彼女のくだりまでは、恋のはじまりとして最高のシチュエーションだったのにね?そういう恋愛ドラマあるんじゃないのってぐらい。…なのにおかしいよ、その男!最初から彼女作る気ないなら、わざわざ偽の彼女なんか用意しないで事実を親に言っとけっつーの!純情な乙女を巻き込むな!」

石田先輩たちは、私が山神という男の人を怪我させたことまでは知っていたけれど、そこから先のことは何も知らない状態だった。そこで今日、レンタル彼女として彼の実家に行ったこと、彼に「友達になりたい」と言ったこと、見事に断られて玉砕したことをすべて正直に告白した。このもやもやした気持ちを晴らしたかったのはもちろんだけど、石田先輩と私の間で男がらみの隠し事はしない約束なのだ。

「親御さんも悲しみますよね?せっかくいい彼女を連れてきたと思ったら、後日別れたって言われるんでしょう?誰も幸せになりませんよ。僕には理解できませんね」

「全くだよ!変な男!」

石田先輩も島崎くんも私の味方をしてくれて、山神さんに対して言いたい放題である。

「でもよくよく考えたら、あれはウザい私をスッパリ切るための方便だったのかも…。一流企業勤めの長身イケメンだもん…、きっと私より良い女が周囲にたくさんいて…彼女がいないのも選り好みしてるだけだったのかもしれない。私みたいな平凡な女では釣り合わなかったのよ…そう…そうよ…あああああーーあーあー」
私は唸りながらテーブルに突っ伏した。

「あ~遥がとうとう壊れちゃった」
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