まだ,なにもはじまらない

ぼんやりと学校への道のりを歩く。
薄紅色の花吹雪が止むことなく舞い散るから立ち止まって見上げれば,後方頭上から黒い影。

「……おはよ」

「……おお」

アッシュブラウンの髪は風になびいてふわふわと揺れて、髪の間から切れ長の目が覗くと僅かに細められた。

そんな何気ない些細な仕草ですら、視線を集めまくる男。

こいつは、周囲から集まる視線をものともせずに,眠そうにふわりと欠伸を一つ落とすと,私の横に並んでゆっくり歩きだした。
とはいえ,身長180以上ある男のゆっくりは私のゆっくりとは違う。
それでも,合わせてくれてるとわかる速度にそっと笑みを落としてまったりと歩き始めた。

「今朝は,藤夜と一緒じゃないの」
「さあ?」
「…ああ,」
風が吹いた拍子に、ふわりと香ってきた甘い香りにすべて納得した。

「なんだよ」
「いや,また新しい彼女できたの?」
「まあな」

何の感情も乗せず、事実を肯定してくる男に遠慮なくため息をはきだす。

そんな私をみて口を開きかけた気配を感じるも、言葉が発せられる前にバイクの重低音に遮られた。


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