隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「それで、俺は合格もらえたのかな?」
「わたしが言うのも変ですが、莉々子をよろしくお願いします」
「大切にします」

二人とも、大きな声ではないが堂々とそんな話をしている。私は、他のお客さんに聞こえないか気が気ではなくうろたえた。
席を立ち、美樹の服の袖を引っ張りながら、五十嵐さんに小さく手を振って、出口に向かう。

店を出ようとした直前に女の人の声がした。

「新君、そうだ、ちょっといい」

つい立ち止まってしまったのは、その声の主が女性で、しかも親しく五十嵐さんのことを下の名前で呼んだからだ。

「誕生日おめでとう。これたいしたものじゃないけど」
「ありがとうございます。でも、申し訳ありません。……お気持ちだけ」
「みずくさいわね、今日に合わせてわざわざきたのに。じゃあ、閉店までまってるから」

女性客は私をちらりと横目でみた。
邪魔するなと言われているようで、私はその場から逃げ出した。
扉を閉める直前に五十嵐さんと目が合う。申し訳なさそうな、困惑するような顔をしていた。私は「だいじょうぶ」という合図のつもりで苦笑いしながら、店を出ていった。

「戦うなら援護したのに」

美樹は不満そうだ。

「一体何と戦えばいいの」
「あっちも、わたし達が親しそうに話してるのを見て、わざとあのタイミングで声をかけたんだよ」
「そっか、でもどうしようもないよね……」

美樹と五十嵐さんの会話を、どこまで聞き取れていたのかわからない。でもあの女の人からすると、私なんてポッとでてきた、五十嵐さん狙いのミーハー女子に見えただろう。彼の誕生日を知っているって、わざと私達に聞かせたんだ。自分は親しい関係なのだと匂わせるために。
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