隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~

Autumn3

美樹と別れて家に戻り一人になると、余計に気分が落ち込む。

私は五十嵐さんから合鍵を預かっていた。夏休みが終わるときに渡されたものだ。
もしも次の日が私の休日なら、いつでも泊まりに来ていいと言っていた。

今夜この鍵を使って、彼の部屋で帰宅を待ち、おめでとうって言うべきなのかもしれない。でも、どうせ五十嵐さんが帰るころには日付が変わっていて、もう誕生日ではなくなってしまっている。それに明日は学校だから、五十嵐さんに言われたルールとは違う。

結局私は、帰宅後すぐに「おやすみなさい、今日はありがとうございました」とだけメッセージを送った。五十嵐さんからはいつもの休憩時間に「来てくれてありがとう」という返事がきた。
あの女の人と、その後どうなったのかなんて私には関係のないことだから、問い詰めたりしない。そう自分に言い聞かせた。

お風呂に入って、少しだけ夜の番組を見て、ベッドに入る。
でも、私は深夜まで眠りにつくことができなかった。何度も寝返りを打って悶々としている間に、扉の向こうから小さな音が聞こえた。
時刻は日付が変わった深夜二時。私は衝動的に飛び起きて、外へ出た。

「五十嵐さん、お帰りなさい」
「起きてたのか?」

自分の家の扉の鍵を開けようとしていた五十嵐さんは、顔をだした私をみて驚く。

「ちょうど、目が覚めたんです」

そう言い訳しながら、私は甘えたふりをして、五十嵐さんに抱きついた。

「おーい、どうした?」

ちょっと困惑ぎみの五十嵐さんを無視して、ばれないようにクンクンと臭いをかぐ。うん大丈夫、いつもの五十嵐さんの香り。彼は香水を付けないから、違う移り香がしていたらすぐわかる。
一体何の心配をしているのか、口に出すのは失礼なことだ。五十嵐さんにはとても言えない。

私はルームウエア姿で、本当なら共有の通路でこんなことをしてはいけないと思う。でも深夜だし、私達以外誰もいないから、少しの間だけ許してほしい。
五十嵐さんは私の頭を軽く撫でたあと、そっと身体を離してくる。
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