隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
仕上がりを確かめるように髪を撫で、うなじに顔をよせてくる。こそばゆい吐息が耳にかかり、私を落ち着かなくさせた。

「あの香水……。飾っといたらインテリアとしては、まあいいんじゃないか? それならぎりぎり許容範囲。莉々子ちゃんの親友からの頂きものだから、特別ね」
「じゃあ、私も。そのままプレゼントは開けないで。私が段ボールに押し込めていい? ごめんなさい、私は飾っておくのも嫌です」
「それで忘れた頃に売り飛ばして、友達とケーキにして食べたらどう?」
「すごい悪い! でもとってもいい考え」

何が入っているのかは知らないけれど、売り飛ばしたら、ケーキ二個分くらいにはなるのだろうか。それともホールケーキ? まさかデザートビュッフェ代にはならないだろう。もし大きなケーキが買えたとしても、五十嵐さんに一口もあげない。全部美樹と私で食べ尽くしてしまおうと決めた。

「買い物に行こうか。莉々子ちゃんに代わりの香水を選びたい」

そんなことを言いだした五十嵐さんは、あまりすぐに動く気配はなく、相変わらず私を膝にのせたまま離そうとしない。

「じゃあ、私も。五十嵐さんに誕生日プレゼントを買いたい。……なんで、教えてくれなかったんですか?」

抱きしめる腕が、一瞬硬直した。そんなに触れてはいけない話題だったのかと首をひねって、彼の様子を伺うために顔だけ後ろに向ける。
五十嵐さんは、不味いものを食べた時のような顔をしていた。

「……俺さ、三十になっちゃったんだよね」
「知ってますよ、さすがに年齢くらい」
「莉々子ちゃんと同じ二十代を免罪符にしてきたのに」

がっくりとうなだれる五十嵐さんがかわいい。私はくるりと身体を回して、膝を付け合わせた。

「三十代の五十嵐さんは、私にキスしてくれないの?」

覗き込むように、彼を見つめる。

「……するよ。三十代はじめてのキス記念に、下の名前で呼んでくれたらする」

これは、五十嵐さんから与えてくれたチャンスだ。ずっと呼びたいと思っていた。でも、一度定着してしまうと変えるのが難しくて、そのままになってしまっていた。
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