当たり前です。恋人は絶対会社の外で見つけます!
「只野さん。」

なのに何で今日の今日、声をかけるんだ。
おとといの今日もである。

後ろを向くと大場がいた。
笑顔でもなく、ちょっと真面目そうな顔をして。
手を見ても荷物がない。



「ちょっと時間もらえないか。仕事の途中なんだ。すぐ終わるから。」

何?
見つめてもその先はなく。
また、一人ですたすたと歩いて行かれた。

ちょっと・・・。

無言の対応のつもりなのに、毎回毎回勝手に了解と思われるらしい。

しょうがないので・・・・今日もついて行く。
仕事の途中になんの用があるのよ?

少し後ろをついて行く。
商店街を通り抜け小さな小道を入る。

どこに続くの?

来たこともない所だった。
ベンチがある遊歩道みたいなところだった。
少し行ったところで足を止めた大場。

振り返った顔は怒ったような顔で。

本当に何?


「なあ、同じ課の千野先輩と付き合ってるって・・・・・。」

誰が?・・・・私? 同じ課って言うと私?
何でそうなる?
どこから出てきた話よ。
そう思ったのに、私が答えたのは・・・・。


「大場には、関係ないよね。」

全くない。関係もない。そして話の内容に実もない。



「あの土曜日もデートで、ランチして映画見て。」

何でそこまでバレてるの?
私は驚いた。
大場を見てもこっちを見てなくて。



「なあ、デート後に何であんな不幸オーラまとってるんだ?」

「本当に好きなのか?どう見てもハッピーじゃない。」

勝手に決めつける・・・・。


「どうしてそんなことわかるの?いいじゃない、別に。好きって気持ちがあれば絶対幸せになれるわけじゃないのよ。そんな気持ちだけで幸せになれるなら世の中いびつな関係だらけだから。」

「何だよ、それ。もしかして二股とか掛けられてるのか?略奪とか。」

近寄られた。大場の影が自分に落ちる。
多分背後に出来た影はぴったり重なってるんだろう。

影だけ。
そして、今だけ。

「関係ないから。自分のことで手いっぱいでしょう?勝手に幸せになればいいのに。私のことは構わなくてもいいのに。なんで・・・・勝手に自分の気持ちを押しつけないで。私はそんな役割は・・・・いらないから。」

同僚の兄なんていらない。
後ろに下がり影の中から抜け出す。

「本当に、もう、構わないで。」

駅に向かって走った。

「譲。」

そう呼ばれた。呼び捨てで。
なんで私に妹役を押し付けたいのか本当に分からない。

もしかして本当に妹がいて、死んでしまったとか?私に似てたとか?
それなら少しは分かる。
それ以外だったら少しも理解しない、できない、したくもない。

さっさと仕事に戻ればいいのに。
自分の彼女のことだけ考えてればいいのに。

電車に乗ってからもずっと俯いたまま。
端の席でハンカチで鼻を押さえて目を押さえて。

自分の降りる駅で人波に乗って降りた。

部屋に戻ってお風呂に入って。寝た。



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