当たり前です。恋人は絶対会社の外で見つけます!
「なあ、さりげなく聞いてただろう?」

前の席に誰かが座ったと思った瞬間声がして、それが誰か分かった。

「合い席はご遠慮申し上げます。」

「いいじゃん、どうせ一人だろう?誰かと待ち合わせか?」

目の前の食事がほとんど無くなってる時点で丸わかりだろう。
そうじゃなくても分かってるくせに聞く。
嫌なやつだ。

そのまま居座る気らしい。
食べ終わってて良かった。
ゆっくりコーヒーを飲む。

「よそ様の別れ話を聞いてただろう。」

そう言ってる時点で自分も聞いてたはずなのに、偉そうに言う。

「私のほうが先に座ってました。隣の席の声は自然と聞こえてきます。以上です。」

だいたい、どこにいた?

「まあ、俺もそうだけど。のんびりコーヒーを飲んでたら隣の席に知ってるやつが座るとは思わなかった。」

そういって立ち上がり隣の席のコーヒーを私のテーブルに移す。
逆の隣にいたとは。・・・・ううっ、不覚。
間には不透明で凸凹あるデザインの素敵なガラスの衝立がある。
席に座るときには何を頼もうかと考えていて、そっちまで見ることなんてなかった。

だいたい座ったら見えないはずだ。私の視線では見えない。
その為のガラスだし。
前の奴を見上げる。
顔が普通の視線より上にある。
よっぽど上半身が長いから気がついたんだろう。


すっかり向かいで落ち着いてコーヒーを飲んでる奴。

大場 啓(おおば けい)。 

同期だけど年は二つも上らしい。
大学生の頃自分探しの旅をしたらしい。
見つかったのかどうなのかは知らない。

ちょっとした『らしい』だらけの曖昧な情報の寄せ集め。


年上でも新人の頃から周囲と馴染み過ぎるくらいに馴染んでた。


「で、せっかくのビッグニュースを一番に仕入れても、誰にも言いふらさないんだろう。」

「・・・・当たり前でしょう。そんなことしないけど、ビッグすぎて、すぐに皆に知られるわよ。」

「まあなあ。いいよなあ、あんな美人の彼女なんてうらやましい。」

軽蔑の視線をわざと送った。

「今ならフリーだし、一緒にって、食事くらい誘ってみれば。イケメンに飽きて、
もしかしたら少しぐらいご馳走させてくれるかもよ。」

「無理無理、緊張するじゃん。」

それでもうれしそうに言う。冗談にきまってるのに。


「女の人は社内の人はもう嫌なんじゃないの。やっぱりいろいろ噂されるし。」

「なるほど、誰かさんみたいに社内恋愛否定派か。」

嫌なことを言う。
何度か繰り返されて嫌味のように言われた台詞だ。

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