恋の始まりの物語
「おう、じゃ、相談にのってもらおうかな。
二次会OK?」

「もちろん。たまってたノロケも聞いてやるよ!」

さっきの表情は何だったのかというような、意地悪な笑みを浮かべて、山本はジョッキを煽った。

入社してからもうすぐ3年。
山本は、こんな風に無防備にジョッキを煽るのは、俺と二次会が決まっている時だけだと、もう気がついていた。

下心つきのボディタッチをした男は、二度と隣には座ってもらえない。
そいつが強引に隣に座っても、さりげなく逃げられていた。

軽く口説いたヤツもそう。

──山本はとことん、色恋沙汰から遠ざかろうとしていた。

つまりだ。
『まりあを好きな俺に対しては、安心していられる。
そして、俺を男だと意識していない。』
ということだ。

今日改めてそれを思った俺は、何だかモヤッとしたものを感じた。

……なんだこれ?
モヤッとしたことにちょっとした恐怖を感じて、俺は軽く頭を振った。

変なことを考えるな。
山本は、いい友達だ。

何度も言い聞かせ、モヤモヤを頭から追い払う。

山本は、俺の好きなタイプとは違う。
俺は、見た目から華奢で守ってあげたくなるような子が好きなんだ。まりあのような。

その時は、こう暗示をかけて遣り過ごした。

──二次会もある。いい加減、切り替えないと──
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