一途な彼にとろとろに愛育されてます



けれど、そんな亜子の印象が変わったのは、入社から一年ほど経った時のことだった。



その日の仕事中、亜子が大きなミスをしたとかで、上司に強く叱られているのを見た。

その時も亜子は言い訳することなく、深く頭を下げ謝っていた。



けどどうせ、少し経てばまたいつものように笑うのだろうと思っていた。

けれど、休憩時間にたまたま見かけた彼女はひとりこっそりと泣いていた。



『……長嶺?』

『檜山くん……あっ、いやごめん!見苦しいものを……』



思わず声をかけたら、亜子は慌てて涙を拭いまた笑ってみせた。

自分のミスに対する悔しさや悲しさがあったのだろう。それを人前では見せることなく、こうして強がってみせる。

そんな彼女の弱さを初めて目にして、胸がグッと掴まれた。



でも、ひとりで泣いてほしくない。

どうしてかそう思った俺は、一度その場を離れ缶コーヒーを二本手にして戻った。



『……飲めば』

『え……あ、ありがとう』



亜子は驚きながらも受け取って、それを確認すると俺は隣に腰を下ろした。



『あと、別に見苦しくなんてないから。落ち込むこともミスすることも、誰だってあるし』



誰かを励ます言葉をかけるなんて、自分らしくない。

だけど、その涙を拭いたかったんだ。



それ以上、俺たちの間に会話はなかった。

けれどしばらくして、立ち上がった彼女が『ありがと』と笑ってくれた時、うれしさと安心感が込み上げた。



強がりじゃない笑顔を見せてくれてよかった。

その表情が、うれしい。

そう思えた時には、気づいたら好きになっていたんだ。




< 147 / 154 >

この作品をシェア

pagetop