その悪魔、制御不能につき
結果的に言えば大きな失敗もなくパーティーは終えられたと思う。周りを見て多少のぎこちなさはあったかもしれないけど、そんな些細なものは社長のカリスマ性の前にかき消えた。
なんというか…社長って本当にすごい人なんだと改めて実感した日だった。もう本当にすごいのよ。言い方に難があるけど光に群がる虫みたいだったわ。
社長ってばほとんど特別なことしてないのにこれなんだもの。持って生まれたものがここまで味方してるのを見るとこの人は私とは違うんだとしみじみ感じる。だからなんだって話なんだけど。
ご丁寧に車まで送ってもらってその時にドレスやらの話でちょっと揉めたけど、最終的にはこういう場面に合うことも多くなるからとパーティーが終わった後にしれっと戻ってきた都築さんに言いくるめられてしぶしぶ受け取った。
ちなみにやっぱりこのドレスとアクセサリー、あとエステとかのお金は社長の財布から出ていたらしい。もう私、社長に足向けて寝られないわ。
「送ってくださってありがとうございました」
「こちらこそ、お疲れ様でした。今日はゆっくり休んでくださいね」
にっこりと笑顔の都築さんに殺意を抱きつつこちらも負けないぐらいの笑顔で頷く。えぇ、本当に色々な意味で疲れたのでゆっくりさせてもらいますとも。
バチバチと視線で稲妻を走らせつつ車を降りようとして不意に社長に目を向けると予想外に社長もこちらを見ていたらしくバッチリと視線が合って思わずドキリとした。
「輝夜、」
「社長、だから名字で、」
「よくやったな」
びっくりしたどころの話じゃなかった。無表情なのに褒めるような、こちらを甘やかすような声は反則だと思う。それが普段人間味に薄い社長ならなおさらだ。
思わず硬直した私に手を伸ばして何本か垂らしていた髪を手に取り口付ける様はまるでドラマのワンシーンのようで現実味がなく、まじまじと見つめてしまう。
薄っすらと笑みを浮かべてお疲れ、という言葉に機械的に頷き、車を降りてその影が見えなくなるまで見送ってやっと頭が動いた。
「社長、あんなことできるのね…」
自分でも間の抜けた感想だったと思う。よくよく考えてみればあのルックスなのだからそういう経験も多いはずなのに、いつも淡々としてて人間の欲?みたいなものと無縁な姿を見ていたからそこに頭が回らなかったわ。
口付けられた髪に視線を落として少し熱を持った頰を誤魔化すように擦って私も自分のマンションに入った。