仕事も恋も効率的に?

★すれ違い★

翌日、デスクには綺麗に畳まれた俺のジャケットが、小洒落た紙袋に入って置いてある。
昨日そのまま着て帰ったアレだ。

〝クリーニング出したかったのですが、急ぎでお使いかわからなかったので、すみませんがそのままお返しします。ありがとうございました。〟
メモを読みながら、昨日のことを思い出す。

我ながら大胆に迫ったつもりだが、相手が全くといっていい程自覚が足りない。かなりわかりやすく口説いたつもりだが...。もっとわかるようにしていいってこと??1人自問自答する。
カツカツとヒールを鳴らしてコーヒーの支度をするみちを見つける。

『おはよ』
『!おはようございます』
『寄り道しないで帰ったか?』
『なっ、昨日はありがとうございました。ちゃんと帰りましたよ 笑』
『よし、いーこ』

ナデナデすると擽ったそうな、でも照れてる顔をする。

『子供じゃないんですから、もう』
『そーだな 笑』
『失礼だなぁ、もうっ』

軽く頬をふくらませ、ちょっと怒るのも愛しい。
本格的に、どっぷりとみちの魅力に浸かってしまい、何をしていても愛しく感じる。

午後イチに、フラフラと歩くみちを、廊下で捕まえる。
『体調悪いのか?』
『ん、んーん、大丈夫。ちょっと寝不足』
『...ふーん?』

ぐいと腕を引き、耳元で囁く。
『俺の事が気になって、寝れなかったなら嬉しいんだけど?』

バッと赤くなるみちをみて、にやけてしまう。
『も、あのねぇ、そゆの言わないの!』
『んー?』
『昨日も言ったでしょう?!耐性ないの!もう、何回言えば...』
『じゃあ、俺に言われることに耐性つけとけ 笑。嫌って言っても毎日言ってやるから』
『!!も、しりません!』

ぷーっと可愛く怒ってるみちの頭を撫でる。

『仕方ないだろ?お前が可愛いんだから』
『!も!い!ほんとに知らない!』

むくれてしまった彼女は、女子更衣室に入ってしまう。流石に入れないので、今のタイミングは諦める。

口説かれてるってわかってんだよな?あの感じだと...。もっと...愛してることわからせてやりたい...。


『なんなのもう、昨日からからかって...。信じらんない』
1人怒りながら作業着に着替える。珍しく現場の同行で、立会があるからだ。

一通り着替え、課内に戻ると。
目に入ったのは、狭山さんのそばに行ってニコニコ話をするコウさんの姿。

ほらね、だから嫌なの。
イケメンで、スタイルよくて、女性に優しくて...。いつものように、狭山さんのデスクには手を付き、何やら話している。
ほら、そーやって誰にでもするから勘違いするのよ。
もう絶対気にしないんだから...。むしろ誰にでもそうなのが腹が立つ。

公用車の鍵をとりにきたみちに気が付く。
『なんだ、現場か?』
『えぇ』
『...体調イマイチなんだろ?つか、現場でるなら言えよ。俺も行くぞ?』
『大丈夫です。木下さんと一緒なので』
『...そーか?無理すんなよ?』
『ご心配痛み入ります』

行ってきます、と係長に声をかけさっさと出ていってしまう。
何怒ってんだよ。つーか、俺が行くって言ってる意味、わかってねぇし...。
木下君は新人で1番若い。別に色恋目線でやり取りしてないのはわかるが、それだって二人きりだ。嫌な気分になるのは当然で...。

『佐川さん、気になるんだねぇ?笑』
『え!』
『本田さんと木下さんの現場行き 笑』
『そりゃ、なんつーか、体調悪いって言ってた、し...』

狭山さんにまでバレバレなのか?!俺!
隣からぶふっと吹き出して笑ってるのは、昨日からかって帰った同僚の北川さん。

『佐川くん、気になるなら早めにそーゆー予定取らないと 笑。美人だし明るいし人気あるよー?本田さん 笑』
『んな!!わかってますよ!!』

否定してでも、ちょっとは隠しておきたい気持ちもあったが、そもそものみちの立ち位置を考えて焦りが先行する。

モテるんだよ。男にも女にも。
そりゃーほっとかないよなって容姿に、仕事も早く、ノリがいいからこーゆー悪ふざけが好きな面々とも仲がいい。押し殺して知らないふりをしていたが、本当は顔に出てしまうほど嫌なのだ。俺にだけ、その笑顔向けてればいいのに...。

悶々としながら小一時間程過ぎると、みち達が戻る。
戻りましたー、と声をかけながら、楽しそうに笑うふたり。そんな些細なことも気に入らなくなる。

作業着から私服へ着替えても、まだ楽しげにクスクス笑い合っている。心の中のモヤモヤは増すばかりで、見たくないから回ってきた回覧に目を通す。

みちの起案だ。指摘した箇所は直してあり、綺麗なデータが載っている。
...大したとこではないし、直すほどでもない。
ちょっとでも俺の事考えてほしくて、そのまま傍に行く。
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