イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
「それじゃあ、乾杯しようか」
「うん」
リードしてくれる中山くんの言葉を聞き、グラスを手に取ると「乾杯」と声をあげる。
カチンとグラスが重なり合う音を聞いてレッドアイに口をつければ、爽やかなトマトの酸味が喉を通り過ぎていった。
そんな私の隣でジントニックをひと口味わった中山くんが、テーブルの上にグラスを置く。
「実は一月二日に安藤と会ったんだ」
朝陽の話は『乾杯してから』。そう約束した中山くんの口から、ようやく聞きたかった話題が飛び出す。けれど、その話は私に取って寝耳に水で「えっ?」という、短い声をあげることしかできなかった。
「大晦日の夜に安藤から連絡があって、三日の昼まで東京にいるから会えないかって言われてさ。だから二日の夜、安藤と渋谷で会ったんだ」
中山くんの話に耳を傾けていると、オーダーしていたチーズの盛り合わせと温野菜のバーニャカウダがテーブルの上に並ぶ。でも今は、目の前に置かれた料理に手をつける気にはなれなかった。
私と朝陽は別れたわけじゃない。それなのに朝陽は私に会いに来てくれるどころか、お正月にこちらに戻ってくることすら教えてくれなかった。
まだ私は朝陽を好きなのに、朝陽は私のことなどもうどうでもいいのかもしれない……。
心の中で不安が大きく渦巻き、胸がズキリと痛んだ。