イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした
気配り上手で真面目な中山くんには“ジェントルマン”という言葉がよく似合う。彼とつき合ったら、きっと私を大事にしてくれるだろう。
でも私が隣にいたいと思うのは、世界でただひとりだけ。たとえ朝陽の気持ちがすでに私から離れてしまっていたとしても、今でも私は朝陽のことが好き……。
自分の思いを打ち明けたら中山くんを傷つけてしまうかもしれない。けれど私のことを本気で心配してくれている中山くんに対して、曖昧なことを言って話をうやむやにするのは卑怯だ。
「中山くん……私……」
覚悟を決めると中山くんに向かって口を開く。しかし彼は柔らかい笑みを浮かべると、私の言葉をすぐに遮った。
「なーんてね。冗談だよ」
中山くんの口角はたしかに上がっているけれど、縁なし眼鏡の奥に見えるブラウン色の瞳は少しも笑っていないことに気づく。
中山くんの『俺にすれば?』という言葉は、嘘偽りのないもの。そう確信した。
「な、なんだ。冗談かぁ」
「うん」
中山くんが『俺にすれば?』という言葉を『冗談だよ』と言って濁したのは、この先もいい同期としてつき合っていきたいという私の気持ちと同じだからだよね?
今回の件で私たちの関係が気まずいものになり、連絡が途絶えることを避けたかった私は『冗談だよ』という中山くんの言葉を信じた振りをした。