キスからはじまる


「あの、世良くん…?」


これはいったいどういうこと?


どうしてわたしは今世良くんと一緒に駅に向かっているの?


「ん?なに」


世良くんはポーカーフェイスを崩さない。


なにを考えているのかわからないよ。


「世良くんはなにか用事があるんでしょ?」


「なんで?」


なんで?って…。


「用事があるからはやく帰ったんだよね?6時開始にしたのも世良くんみたいだし…」


「用事なんて、ないよ」


当たり前かのように言う、彼。


わたしの頭はこんがらがってきて、一旦整理しようと考えた。


特に用事はない、世良くん。


6時開始にしてほしいと委員長にたのんだ世良くん。


わたしと同じタイミングで、退席した世良くん。


なぜか、お店の横に立っていた世良くん。


そして、今なぜか、わたしの隣を歩いている世良くん。


……世良くん、もしかして、わたしのために6時開始にしてくれたの……?


自意識過剰ながら、そんな考えが浮かび上がってきた。


だけど、そんなの恥ずかしくて聞けない。


でも、でも。


わたしを待っていたとしか思えないこの状況。


……ドキドキして、世良くんのこと、もう見上げられないかも……。


よかった、もうすぐ駅に着く…。


「わ、わたし、ここで……ひゃ…っ」


ドキドキがばれないまま駅のなかにはやく入りたかったわたしは、後ろからやって来ていた自転車に気づかないままショートカットしようとした。

次の瞬間世良くんに肩を抱かれ、足がもつれ彼の胸に飛び込んだ形になってしまった。


自転車がわたしたちの隣をシャッと通りすぎた。

< 55 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop