僕に君の愛のカケラをください
「お邪魔します」

駐車場まで父親を迎えに行った葉月が、蒼真のマンションの玄関に彼を案内した。

「葉月さんの職場の上司で坂上蒼真といいます」

蒼真は玄関先まで出てきて葉月の父親を出迎えた。

「男、の人だったんだな」

父親の口元は微笑んでいるが、目は笑っていない。

蒼真は内心ビクビクしながらも、平静を装い、葉月の父親をリビングのソファに案内した。

「高山利信です。葉月が世話になってるね。あの娘は思い込んだら何をするかわからないから。迷惑をかけて申し訳ない」

「いえ、この家はペット可の持ち家ですし、部屋も余っていましたから」

葉月は台所で料理を作っている。

利信と二人きりになった蒼真は、できるだけ笑顔で返答した。

「それで、この同居はどちらが言い出したのかな?」

「私です」

利信は、蒼真の目をじっと見つめた。

「蒼真くんは葉月のことを好いてくれているのかな?」

「はい」

「そうか」

利信は、口元をほころばせて頷いた。

「葉月の母親は、葉月を産んですぐに亡くなったんだ。それからは私が一人であの子を育ててきた」

蒼真はじっと話に耳を傾けた。

「私が農業大学校で獣医をしていることは聞いている?」

「はい」

と蒼真は頷いた。

「私はどこに行くにもあの子を連れていった。常に人と動物に囲まれて育った葉月は人見知りをしないだろう?」

「そうですね。誰とでも仲良くなれるし、とても思いやりがあります」

「だが、だからこそ、あの子は人をみる目が厳しいんだ。動物の面倒をみるということは、言葉を話さない相手の感情を読み取らなければできない」

利信はにっこり笑って

「あの子が警戒もせず君の懐に飛び込んだということは、それだけ君の人間性が優れているということだ。迷惑をかけると思うが、葉月と、そうだな、ジロウだっけ?子犬をよろしくお願いします」

と頭を下げた。

「私には両親がいません。面倒をみてくれていた祖父も5年前に亡くなりましたので身寄りはいないんです」

蒼真が俯いて言葉を繋いだ。

「そうか、そんな境遇なのにこんなに立派に育ったんだな。頑張り屋だ」

利信の思いがけない言葉に、蒼真は驚いて顔を上げた。

「君のことは心配していない。しかし、葉月は鈍感でマイペースだからな。うまくやれよ」


フフっと笑って利信は立ち上がり

「どれ、ジロウの診察でもさせてもらおうかな」

と、布が被せれているジロウのゲージに近づいて行った。
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