恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
第十七章  カワセマリ
 それから、どれくらい寝てたのかな。

 朝の光が、カーテンの隙間から寝室に射し込み、眩しくて目が覚めた。

 隣に、院長が寝ているって不思議な気分。

 私を包み込む腕からすり抜けて、横向きになって、顔をまじまじと見たい。

 起こさないように、そっと動いたら、寝息交じりに、「んん、ん」って。

 今まで聞いたことがない、甘い声を漏らしながら、無意識に私の体を抱き締めてきた。

「んん、身動きがとれない」

 厚い胸板の隙間から、整った美しい顔に見惚れていたら、また好奇心を刺激されて、つい触れてしまう。

 この柔らかな唇が私に愛を囁き、キスをして熱い吐息も吹きかけたのね。

 この温かな耳は、私の切ない声に反応して興奮で紅潮した。

 私を抱き締めながら、唇を噛み締め、顔を歪め、なにかに我慢するあなたの閉じた瞳といっしょに、この長く濃い睫毛が揺れていた。

「川瀬が愛しくてたまらない」
 院長が言った一言一句を、そっと呟いた。

「院長、大好き」
 すうすうと寝息をたてながら、安心して寝ているあなたが愛しくて抱き締めた。

 そっとシーツの波をかき分けて、辺りを見回したら、二人の洋服があちこちに散乱している。
 どんなに院長の前で乱れたの? 

 恥ずかしい。

 慌てて、下着と洋服をかき集めて身支度をして、院長のスクラブの上下をたたんだ。

 気持ちよさそうに寝ているから、朝食を作った。そろそろ起こしに行きましょう。

 日射しに照らされた、ダークブラウンの髪が、明るさを増して金色みたいに輝く。

 起こそうとすると、顔をしかめて嫌そうな声を上げ、いも虫みたいにころんと寝返りを打って、背中を向けちゃう。

「起きてください」
 気持ちよさそうに眠っている熱い体は、ぴくりともしない。

 筋肉質の広い肩幅を遠慮がちに揺すると、私の方に、ゆっくりと寝返りを打った。

「起きてください」
 幸せそうな顔して。
「あん、もう、起きてったら起きて、ねぇえ」
 焦れて軽く地団駄を踏んで、ついつい独り言を漏らす。

 そうしたら、いきなりシーツが持ち上がって手首を掴まれ、あっという間に吸い寄せられるように、ベッドに引きずり込まれた。

「やっと甘えた声を上げた」
 かすれた鼻声が目を瞑ったまま、むにゃむにゃした声で呟く。

「あああ! 起きてたんですね、策士!」
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