イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
タグテスは、とある侯爵の住む街の名前だ。ここでは、その男性の名前を口にするのをはばかってあえて地名で呼んだが、そこにいるもので『タグテスのお方』が誰だか分らないものはいない。

「タグテスのお方……ですか?」
 だが、その青年だけはそれが誰なのか見当がつかないらしく首をかしげる。それを聞いて、数人の夫人が笑った。

「あなた、何も知らないのね。どちらの地方からいらっしゃったのかしら」
「おや、これは失礼。ですが」
 そう言ってゆっくりと口元を吊り上げた青年は、仮面をつけていてもかなり造作の整った顔をしていることがわかる。

「これだけ美しい方に囲まれていては、男の話題など私の心の端にものぼりませんよ」
 夫人たちはいっせいに、あらとかまあとか言いながらその頬を染めた。
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