極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「自惚れるなよ。それだけの関係なら、お前みたいな女は選ばない」


「面倒なんだよ」とその言葉通りの表情でつけ足した篠原は、どこか諦めにも似た表情で続けた。


「いいか? 一回しか言わないから、よく聞いとけよ」


次の言葉が落とされたのは、不機嫌な顔をした彼の唇が私の耳元に寄せられた直後だった。


「……好きだ」


吐息が触れたことにピクンと反応した体よりも、その単語の意味に硬直する。


「だ、誰が……」

「俺が」

「誰、を……?」


マヌケな質問を返した私に、篠原はここ最近で一番大きなため息をついた。


「……お前しかいないだろ」


「いくらなんでも鈍過ぎる」とうなだれた彼が、目を見開いたまま固まる私を上から覗き込んだ。


「お前の鈍さとバカさをギネスに申請したら、破れる奴はいないぞ」


篠原らしいなんとも失礼な悪態にも今は構う余裕がなくて、整理できない思考をどうにかしようと口を開く。


「こ、恋人は……」

「は? そんなもん、お前と出会った頃からいないけど」

「だ、だって、プレゼント……」

「これは、お前にやるつもりで買ったんだ。ついでに、こっちもな」


さっきとは違う箱のラッピングを乱雑に取った彼は、蓋を開けて中身をひっくり返した。

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