極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「ほら、『好き』って言えよ」


腹立たしいのは、私も同じ。


さっき、書斎で自覚したばかりの気持ちはやっぱり恋のそれで、その相手が篠原だなんて……。
あの夜の失態なんかとは比べ物にならないほど、これは私の人生最大のヘマに違いない。


悔しいから、絶対に『好き』なんて言いたくはないけれど……。彼のファンとして、そして担当者として、今一番伝えたい言葉だけは紡ぐ。


「好き、ですよ……」


小さく呟いた単語には、気づいたばかりの想いと悔しさを込めて。


「……【失恋ショコラ】は」


ついでに、皮肉をプレゼントしてみた。


「ムカつく。……雛子のくせに」


篠原は不機嫌な声で呟きながら眉をひそめたけれど、すぐに楽しげな笑みを零した。私の心臓は、彼の声で紡がれた自分の名前にドキリと音を立てる。


「まぁいいか。お前の気持ちなんて、とっくに知ってたし」

「え……?」

「俺に抱かれた日から、お前やけに俺に反応するようになったよな。ちょっとからかったら顔真っ赤にして、潤んだ目してさ」


クッと笑った篠原が、唇の端を上げた。


「雛子は、もうずっと前から俺のことが好きだったんだよ」


種明かしにも似た彼の言葉に反論する前に、自分自身もそれを悟ってしまう。

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