彼と彼女の花いちもんめ~溺愛王子の包囲網~
ヒーローは遅れて来るのが定番です
「突然、メール送ってすみませんでした」
「あ・・いえ・・・」
「お分かりかと思いますけど、南野さんの事です・・」
「な、なんでしょう・・・」
「先日、私、南野さんに振られました。好きな人がいて、片思いしてるからって・・」
「そう・・・ですか」
「ショックだったけど、ちゃんと答えて貰えて嬉しかった。南野さん、すごく優しくて・・
でも、その後、お二人が街中を歩いてるのを見たんです。南野さんが好きな人って、仁科さんなんですか?」
「・・・」
咄嗟に答える事が出来ずにみちるは視線を逸らした。
その反応を見た仁科が、眉根を寄せて見つめてくる。
「あの日、食堂の前ですれ違いましたよね?もし、あたしと同じように、南野さんを好きで、付きまとってるなら、止めてあげてください。こんな事、あたしが言うのも変ですけど・・・好きなら、ちゃんと応援してあげてください」
「・・・あ、あの・・・仁科さん・・・ちょっと・・違うっていうか・・・」
「何が違うんですか!?」
「た、確かに、あたしは、南野さんが好きですっ」
どうして本人に伝える前に、あんたに言わなきゃなんないのよ!
内心やけっぱちになりながらみちるが言った。
本当なら、この言葉を聞くべき人物はここにはいない。
「でも、別に、付きまとったりしてないから!」
これだけは、はっきり言っておかなくてはならない。
「でもっ」
尚も言い募ろうと、みちるに詰め寄った仁科が、急に驚いた顔をして立ち止まった。
怪訝に思ったみちるが背後を振り返ろうとして、止まる。
「俺が、好きな相手が、この子だから」
背中から抱き寄せられて、みちるがたたらを踏んだ。
聞こえてきた声に、ぎょっとして声の主を振り仰ぐ。
篤樹は、真っ直ぐ仁科を見つめて言った。
「あの日、呼び出して、告白したんだ・・・仁科さんのおかげだよ。背中押してくれてありがとう」
「・・・え・・・あ、あの・・・すっ・・すみませんでした!」
勢いよく頭を下げた仁科が、そのまま踵を返して公園から駆け出していく。
その後姿を呆然と見送っていたみちるの耳に、わざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「・・・びっくりした・・」
「っ!それはこっちのセリフ!いつからいたの!?」
ぎょっとなって言い返すと、篤樹が笑って最初から、と答えた。
コンビニに行こうと会社を出たら、公園に入っていくみちるを見つけて尾行したらしい。
「最初からって・・・」
みちるが小さく呟いて、黙り込む。
と、いうことは、みちるの話を全部聞いていたということで・・・つまり・・・
“あたしは南野さんが好きですっ”
う、嘘でしょ・・・聞かれてたなんて・・・
真っ赤になって、篤樹の手から逃れようとしたら、強引に抱きしめられた。
「な、なにっ・・・」
「あれって、嘘じゃないよな」
「・・・」
「好きになった?」
腕に収めたみちるを見下ろして、篤樹が尋ねてくる。
「・・・」
「あの日のキスも、嫌じゃなかったって、思っていい?」
「・・・」
「俺を嫌いになって、避けたんじゃないって、自惚れていい?」
「・・・」
「みちる?」
泣きそうになって俯いたみちるの横髪を掬い上げて、篤樹が耳元にキスをする。
「黙ってるなら、そういう事にするけど」
「・・・好きにすれば・・・」
小さく答えたら、篤樹の指が顎にかかった。
視線を合わせるように、持ち上げられて、俯けなくなる。
視線の先には、柔らかく微笑む篤樹。
「好きだよ」
何度目かの告白と、一緒に唇が重なる。
唇を挟むように何度も啄んで、繰り返されるキス。
緊張と不安で俯きそうになるみちるを支えて、篤樹が唇を割ってきた。
急に差し入れられた生暖かい舌の感触に、びくりとする。
篤樹の指が宥める様に、みちるのうなじを撫でた。
「っ・・ん・・・っちゅ・・・ん」
歯列をなぞった舌が上顎を擽って、動けずにいるみちるの舌を絡め取る。
口内で探る篤樹の巧みなキスに、みちるはついていけない。
息も絶え絶えに、篤樹の腕を掴むと、漸く唇が解放された。
赤くなった頬を篤樹が撫でて、額にキスを落とす。
涙目になったみちるの顔を見て、頬を緩めた。
「・・・大丈夫?」
「聞かないで・・」
俯いて、ふらつく頭を篤樹の肩にもたせかける。
クスクス笑って、篤樹がみちるの髪を撫でた。



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