彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
「っ・・・」

もがけばもがくほど、彼の指はあたしの指を手を握り込む。
当然のはずの力の差に愕然として、思わず俯く。

彼は、いつもの本音の見えない曖昧な笑みを浮かべたままで、あたしの視線を送る。

「でも、なかなか靡いてくれなくて、苦戦中」

「仁科さん、高嶺の花ですから!一筋縄じゃあ行かないんでしょ」

「仁科ちゃんなら、きっと柿谷さん位かっこいい人なんて見慣れてるだろうし」

「そうよねー。彼氏いないって言ってたけど、元彼もやっぱりイケメンなんでしょ?」

先輩からの質問に、あたしはますます居心地が悪くなる。

元彼どころか、恋愛経験ありません、なんてこんなところで暴露したくない。
かといって、それを知っている柿谷さんの前で嘘吐くのも、突っ込まれたどうしようという不安がある。

どうすりゃいいのよー!!!!

「えっと・・・」

何と言って切り抜けようか迷うあたしの左手を解いた柿谷さんが、右手をあたしの肩に回した。

ぐいっと抱き寄せられる。

「そういう話、今はやめてよ。
元彼の話とか聞きたくないし。
俺、結構本気だから、妬ける」

珍しく真剣な彼の声に、皆が息を呑む。

「ええっそんなガチ本気!?」

「すっげ。柿谷さんを本気にさせる女って、さすが仁科さん」

男性陣に対して、女性人二名は、骨抜きのメロメロ状態だ。

「やっぱり柿谷さんかっこいいっ」

「仁科ちゃんっ!ここまで言われたら本望でしょ!!行っときなよ!」

「・・・え、いえ・・・でも・・」

いけるかー!!!!

と言いたいのは堪えて苦笑いするしかない。

そんなあたしの後ろ頭をぽんと叩いて、柿谷さんが笑う。

「まあ、長期戦覚悟してるから。皆も協力よろしくー」

いつも通りのふざけた口調で締めくくる。

あたしは返す言葉もないままに、どこか他人事のように盛り上がる5人を眺めていた。

今のは、助けてくれたってこと?
あたしの為?
ううん、そんな筈ない。
きっと、気まぐれに過ぎない。

のに・・・

触れられた左手が異様に熱い。
握りこまれた大きな掌と、長い指の感触が離れない。

ちゃんぽらんで、いい加減で、遊び人。
でも、彼は、どこか、優しい。 
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