彼と彼女の花いちもんめ~意地悪王子の包囲網~
ここから本気を出してみる
「なんでいるんですか!?」

社員用出入り口を出た途端、目の前に柿谷さんを見つけてあたしは目を剥いた。

終業時間はとっくに回っているし、帰宅する社員も大勢いる。
けれど、営業部に限って定時過ぎのこの時間帯に帰るなんてあり得ない。
いわゆる待ち伏せ状態だ。

「なんでだと思う?」

「質問に質問返さないで下さい!性格悪い!」

「べつにきみを待ってたわけじゃないけど?」

「・・・え?」

「自意識過剰」

にやっと笑って柿谷さんが面白がるようにあたしの顔を見つめる。

だって!この時間だし、あたしに用事があるのかと思うでしょ!
これまでの行動から推測するとこういう答えしかでないっつーの!!
ほんっとなにこの男!!

「あっそうですか、お疲れ様ですっ」

ムキになって彼の前を足早に通り過ぎる。
こんな男と関わると、ほんっとろくでもない事にしかならない。
ウキウキしながら新発売のメイクキットの予約に行くつもりが、台無しだ。

「まあ、待てって」

そんな言葉と共に彼の手があたしの腕を掴んだ。
必然的に足を止めることになって、あたしは剣呑な視線を彼に向ける。

「なんですか、用事ないんでしょ!?」
「そんながっかりした顔されちゃったら、俺も困るよ」

「は!?別に、全然がっかりしてませんけど」

「強がっちゃって、可愛いねー」

「ほっといて下さいっ!あたし、すっごく忙しいんですっ」

「へえ、デート?」

「そ、そうですっ!」

「ふーん・・そっかー」

何よその目は!!

あからさまにからかう視線を向けられて、あたしはさらに怒りを増長させた。

「と、とにかく、帰るんでっ」

「俺、今週忙しいんだよ」

「あ、そうですか、別にあたしには関係ありませんけどっ?」

「週末には片付くから、金曜仕事帰りにデートしようか」

「っはい?な、なんで・・」

突然の申し出に目を白黒させるしかない。
なんでこの人ってこうも突然で、かつ強引なんだろう。

「理由要る?」

「い、要りますよ!用事別にないしっ!」

訳が分からず適当に切り返すあたし。
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