ずっと前から好きだから
「いつも、引っ込み思案で、親の前でさえそんなにハッキリものが言えなかったのに。匠のおかげかな?」



お父さんが、匠のことをちらっとみる。



「いや、俺はなにも.......」


「よし、夏実.......いや、詩音」


「.......っ」



写真を見た時点でわかってはいた。
自分がずっと慣れ親しんでいた名前の夏実ではなく、詩音という名前であること。

でも、いざ本当にその名前を口にされると結構キツい。

あたしは、本当は夏実ではなかっただなんて。
どうやって信じれるというの。

学校でだって、どこでだって。
あたしは、五月女夏実としていままで生きてきた。



「匠、夏実は?」


「もうすぐ駅に着くらしいので、俺が駅まで迎えに.......「いやだ」



匠が彼女のことを夏実と呼ぶのを想像したら、自然と口が動いていた。



「どうした?」



匠があたしの顔を覗き込む。



「理由なんて、知らなくていい。あたしは、夏実なの。夏実なの!」



いやだ。
あたし以外をその名前で呼ばないで。

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