君と過ごした冬を、鮮明に憶えていた。
__いやだ。
 あんな家に、汚い家に、あの男がいる家に、帰りたくない。
 そんな時。
「...どうされたんですか?」

 思い返すと、今までの生活の方が、これからの生活よりも、もっと、ずっと、楽だった。
 そんなことにも気付かずに、差し伸べられた手を疑いもせず取ろうとした私は、本当に愚かだったんだと思う。

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