あなたの大切な人の話
キキーッ、と鋭い音がしました。
あなたは状況に気付くのが彼女よりワンテンポ遅かったため、何も行動はできませんでした。
軽自動車の急ブレーキは狂ったように鳴り響き、あっという間に急停車。それは、ぶつかる前に停まれたように見えました。
しかしその瞬間、後ろでガシャンと金属の潰れる音がして、停まっていたこちらの車体も、ガクンと揺れたのです。

ふたりの体も車体とともに揺れました。
そのゆるい衝撃が収まり、あなたも、彼女も、軽自動車のフロントガラス越しに見える若い女性も、目を見開いたままシンと静まり返っていました。
こちらはオープンカーで、軽自動車の方も窓が全開でしたから、その後のお互いの緊迫した息づかいが聞こえてきました。

ほんの数秒して、軽自動車の女性は、ヒッと息を飲み込むと、ぐりんと大きくバックをした後、今度はハンドルを切り始めました。
そのとき、あなたの隣の彼女が、もう一度後ろへ向かって叫んだのです。

「待って!逃げちゃダメです!……大丈夫、大丈夫ですから、逃げたらダメですよ……」

その声が響くと、軽自動車はバックしたまま、動き出そうとはしませんでした。今にもアクセルを踏み出しそうだった女性は、あなたたちを見つめたままやっと動きを止め、エンジンを切ったのです。

事態を把握したあなたは、鋭い表情で、前髪をぐしゃりとかきあげました。
あなたの大嫌いな、大変面倒な事態になったのです。
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