大事にされたいのは君
キョトンとした彼が首を傾げて呟いた。「今だって友達だろ」と。…違う、全然違う。
「今は…他人みたいだ」
挨拶をするタイミングすら貰えない。二人で話す時間だって無い。そんなの、知り合いですらない。
「でも吉岡さんは言ってたよ、友達は他人だって」
自嘲的な笑いを浮かべて、瀬良君は言う。その通りだ。それは以前の私が告げた言葉。こんなにも冷たい、酷い言葉だった。それが今私に返ってきて、私に後悔を植え付ける。
「…ごめんなさい。友達は他人じゃない。私と君が他人な訳ないって、今の距離に居てやっと分かった。もう、他人は嫌だ」
寂しい。初めから傍に居なければこんな気持ちは知らないままでいられた。他人と友達は違う。君は他人とは違う。他人にしたくない、されたくない。
「だからもっと前…みたいにはいかなくても、もう少しだけで良いから仲良くして欲しい」
「…前みたいに戻れなくてもいいの?」
探るような目で私を見つめる彼が問う。もちろん戻れるのならば戻りたい。でも、それは彼が望んでいない。彼のなりたくないものに、私はなれない。
「うん。君の傍に居られればそれでいい」
「俺に他に大事な人が出来ても?」
「いいよ。それで瀬良君が幸せなら、それでいい」
もうどれが本心でどれが虚勢なのかも分からないけれど、前のようには戻れなくても彼の友達になれるのならそれで良いと、言葉は迷わず口をついて、どんどん溢れ出た。彼の求めるものになるから、傍に居させて欲しい。全てはその一言で済む話だったけれど、その一言を口に出す事は無かった。流石にそれを心の中に留める冷静さは持ち合わせていた。そんなの、前の関係を思い起こすだけの言葉で、きっと伝えられたとしても瀬良君は良い気持ちはしないだろう。決意と共に、私はそれを飲み込んだ。