大事にされたいのは君

好かれないタイプの人間だから、なんて、どうせ私は必要とされないから、なんて、線を引いて入れないようにして守ってる。『吉岡さんは頑なに自分から周りを受け付けないのに、そのくせ一人で寂しそうにしてるから』ーー以前瀬良君に言われた言葉は正しい。正にその通り。

ここに居る必要が無い、そんな事分かっている。居なくなりたい。でもそれを口にしてはいけない。だって兄の気持ちを裏切る事になる。それだけ鋭利な言葉、簡単に発してはいけない言葉。…だったはずなのに。

「ご、ごめん、なんでだろう。こんな事言うつもり無かったのに、あれ?なんでだろう」

気づけばこんなにも一人で自分の身の上話ばかりしていた。私の口だけが動いて、私は私の意識の中に潜り込んで、まるで私が私の為に話をしている、そんな感覚で…

「嫌な気持ちになったよね、ごめん。私の話はこれくらいにして、えっともっと何か違う話を、」

「吉岡さんってさ、お兄さんの事お兄ちゃんって呼んでんだね」

「しよう……へ?」

一瞬、真っ白になる頭。ピタリと動きを止めた身体をギギギと動かし彼の表情を確認する。どんな面してそんな事を言っているのだと。何の話を聞いていたのだと。本気でそんな事を言っているのかと。

…彼は、笑っていた。

「一回だけお兄ちゃんって呼んでたよ、プライベートな吉岡さんがひょっこり顔出した、みたいな」

彼のそれは恍惚とした、ぼんやりと満足感に浸るような笑顔だった。蕩けたような瞳が、私の瞳をしっかりと捕らえた。

「吉岡さんの、本音だ。居なくなりたいなんて、吉岡さんがそんな事を思ってたなんて誰も思いもしないだろうな」

どうやら、私の言葉で彼が気分を害する事は無かったらしい。むしろ喜ばせただけだったようだ。私の重く汚い本音すら、彼はなんて事無く受け止める。私の想像の斜め上をいく反応で。
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