大事にされたいのは君

そしてそのまま何事も無かったかのように去っていく三好君の後ろ姿を見送って、私も怪訝そうに私を見る瀬良君を連れて教室を出た。

何を話したのかとか、何かされたのかとか、なんだか物凄く聞かれたけれど、彼に言うべき事は特に無かったので適当にあしらいつつ家の前で彼と別れた。わざわざ送らなくて良いと言ったのに、彼の押しに負けた。まぁいつもの事だ。

「吉岡さん」

家に入ろうとすると、挨拶が済んだはずの瀬良君に声を掛けられた。まだ何かあるのかと振り向くと、彼は笑って言った。

「俺は吉岡さんの事必要だよ」

…それは、居なくなりたいとうっかり口を滑らした私へ贈る言葉なのか、それとも三好君との会話を聞いての念押しの言葉だったのか。

「…私もだよ」

そう返して、私は彼に背を向けた。これでいいのかと、疑問に思う自分が胸の片隅で首を傾げたのが分かったけれど、何に疑問を抱いているのか私にはよく分からなかった。


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