秘/恋



「……なんであんた、ここにいるの?」


嬉しいとか、哀しいとかを飛び越えて、息が詰まって。

乾いた、掠れた声が、喉から漏れた。

あたしの声に反応して、明良の眉間にシワが寄る。

表情を押し殺した真っ白な顔に、くっきりと谷間が刻まれる。


「毎日の習慣、そう簡単に変えないっつの。
なのにあんた、無造作に俺を置いていきやがって」

「あ……」


一方、あたしのすぐ傍に立つ樹也は、余裕があるみたい。

軽い調子で、あたしを責めてくる。


「ずっとあたしたちを追い掛けて来たワケ?!
バカじゃないの、あんた」

「うっわ、ひでえ云いぐさ。
でも、バカでもなんでもいいや」


つぶやいて、樹也はにまっと笑った。


「あんた、いま、俺を呼んだろ?」



< 170 / 219 >

この作品をシェア

pagetop