秘/恋



「待てよ。荘野、明姫」


落ち切った目線が、
転がった小石の数まで数えたところで。

かがんだ背中を声が飛び越した。


――フルネーム?


ずるずる目を這わせていくと、
スニーカーの爪先にぶつかった。

続けてのろのろ視界を持ち上げた、その先に。

まだ馴染みのないヒヨコ頭が、
にんまり笑顔で立っていた。


「おはよ。荘野明姫」

「……樹也?」


あたしはうろんな声で呟いた。



< 66 / 219 >

この作品をシェア

pagetop