恋・愛至上命令。
「・・・・・・それを言うのは私のほうです」

凪は、取り出した野菜をボールごと流し台に置いて水洗いしながら呟くように。

「・・・お嬢が慣れない家事も一生懸命覚えて、それから車の免許を取ったことも、春からここで一人暮らしをしていることも、姐さんと本条さんから聞いてました」

言葉を切った凪は水を止め、洗った野菜をザルに上げてピーラーで剥き始めた。

わたしも止まってた手を動かし出して、次は塩麴に漬けた鶏肉を一口大に。玉子を割りボールで溶いていると、黙ってた凪がまた口を開いた。

「待っていてもらえなければ、戻ることも出来ませんでした。・・・・・・ありがとうございますお嬢」

静かな声に込められた、見えない感謝の気配。
少ない言葉でも実直に伝わってくる、生真面目な凪らしい想い。

「・・・お礼なんて」

胸が詰まってその先が言えなくなる。

凪はお父さんとの約束を果たして戻ってきてくれた。それだけで十分だわ。
そう思った途端、何だか色々なものが溢れそうになって。目が潤みかけたのを懸命に堪える。

「・・・・・・傍を離れていた分の埋め合わせは、瀬里お嬢の気の済むまで存分にさせてもらいます」

隠すように下を向いてボールの中身を菜箸で掻き混ぜてたら、上から低く響いた声。
そこでもう限界だった。零れて頬を伝った涙を慌てて手の甲で拭う。

あの時離れたことは決して無駄じゃなかった。心からそう思った。必要なことだった、凪にもわたしにも。
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