恋・愛至上命令。
お母さんは通路を右奥の方に進み、窓際席の一つに寄って行ったかと思うと、そこに腰掛けてたスーツ姿の男性に声をかけた。

「ありがとう井沢(いざわ)」

「いえ。・・・瀬里お嬢さん、ご無沙汰しております」

そう言って立ち上がり会釈してくれたのは。お母さんの運転手さん兼ボディガードの井沢さん。本条さんよりは歳上で、すらっとした目付きが鋭い銀行マン・・・的な雰囲気のひと。

状況からするに彼が並んで席を確保してくれたんだろうと思う。見た目はサラリーマンに見えなくはないし、悪目立ちしてるとか場違いとか浮いてるとかじゃないけど! お母さんもほんとに遠慮がない。

「では自分はこれで。ごゆっくり」

「あ、はい」

スッと体を引き、踵を返した彼の背中が。凪と重なって複雑な心境になる。
井沢さんも。お母さんの言うことは絶対だ。信頼、忠誠、命を懸けることすら厭わない。

いつか訊いてみたくなった、彼に。その人生に悔いはないのか・・・を。


「瀬里、せっかくだから時間いっぱい食べ倒しましょ!」

白いプレート皿を手にしたお母さんに笑顔で急かされ、今夜は女子会を楽しもうと、わたしも笑って頷いた。

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