王子様とブーランジェール



少し足を進めると…あぁ、これか。

先生の言っていた…。

一面に、赤いキノコたちが生えていた。

これが噂のベニテングダケ…。

『猛毒!触らないでください!』と、書いた看板がある。




「さっきの松っつん、カッコよかった」



隣にいた柳川が急に呟いた。

松っつんって、松嶋のことか。

随分とフレンドリーな呼び方をしてるな。



「ふーん。どのへんが?」



さっきのダーツの腕前は見事だと思った。

あれはホントカッコいいと思ったぞ?

敵情視察がてら、ちょっと女子の感想を聞いてみたい気もする。



「…ほらー!神田さんを抱きしめてやってもいいとか!言ってた時のあのちょっとマジな顔…ねえねえ、あの二人、デキてんのかなー?」



『桃李。…何ならここで今。抱きしめてやってもいいんだぜ?ハニー?』



…あれか。あのことか。

女子はあれをカッコいいと思うのか。

普段チャラけてるヤツがマジな顔すると、胸キュンとやらをするのか。



(………)



っつーか、他の連中にもあやしい関係とか思われるあたり…ホントにマジなのか?

今の柳川の一言で、我に返る。

確かに。さっきのセリフを吐いてる時のヤツの顔は、ちょっとマジだったかも。

これは…ヤバいぞ!

松嶋のふざけた態度と、桃李のイカれた怖がり様で、無いとは思っていたが。

これは、何たる事態!

迂闊だった…!



後ろを振り返る。

松嶋と桃李、どうなってんだ?

ひょっとしたら、今頃…!



その時。後方から、悲鳴が聞こえてきた。



『ぎゃあぁぁっ!』



この汚い悲鳴は、桃李のだ。

暗闇と物音にビビってんのか?

まさか、松嶋に何かされたわけじゃないだろな?



「あ、でもー?私はダンゼン竜堂派だからね?だってぇー、その竜堂くんの俺様ちっくな感じとかー?ケンカ強いとことかー?クールな感じとかー?竜堂サンダーとかも、もうカッコいい…」

そう言って、柳川は俺の右側に寄り添ってくる。

そんな後から取って付けたような惨めなフォロー、どうでもええわ!

それどころじゃねえんだよ!今は!

っつーか、くっつくな!



どうする?

いや。ただの怖がりなら、そのままほっとく。

松嶋、せいぜいのたうち回る桃李の世話をしてくれ。

だが…もし、抱きしめるだとか、そっちの方向に走ってるのなら!

首を狙ってハイキックで一発で仕留めてやる!

許されないわ!

でも、悲鳴を聞き分けるとか、難しくね?




だが、しかし。

聞き分けるとかそんなレベルじゃないものは。

はっきりとわかるものだ。





『…ぎぃやゃああああああぁぁっ!!』




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