王子様とブーランジェール




「高瀬センパイ、こんにちは…」



高瀬と小競り合いをしていると、俺の陰に隠れていた桃李がひょこっと顔を出す。

高瀬にペコリと挨拶していた。

…桃李、何やってるんだ!

出てこなくていい!



「…あっ!神田さん!」



高瀬の表情がパッと変わる。

ゴリラなりに嬉しそうで、ちょっと赤らんでいる…。

そして、邪魔をしている俺を押し退けた。

…んだと?このゴリラコラァ!



「センパイ、この間はすみませんでした…」

改めて先日の謝罪をする桃李。

いい。そんなもん、もう謝らなくていい。

おまえ、品を持ってお詫びしたんだし。



高瀬は首をブンブンと振っている。

「いやいや、俺の方こそ申し訳ない。あんなことで怒ったりして…」

すると、気持ち挙動不審になってソワソワしている。

ゴリラの挙動不審、気持ち悪い。



「か、神田さん!あの…」

「は、はい…」



高瀬は、自分の持っていたモノを、桃李に差し出した。

箱のアーモンドチョコレート。

桃李は「へ?」と、驚いている。



「これ、この間のパンのお礼です!…あのパン、神田さんが焼いたんですか?」

「…え?あ、はい…」

「とっっても、美味しかったです!ありがとうございました!」

「は、はぁ…」

桃李は多少困惑気味だ。

恐る恐るとそのゴリラのチョコレートを受け取っている。



な、何だ?この展開。



それは、眼鏡の件の次に恐れていた事態だった。




「…神田さん!」

「は、はい…?」

「…また、パン、焼いてもらえませんか?また食べたいです!」

「あ、いいですよ…」




…何っ!

高瀬にまた、パンを焼いてやると?!

あっさり約束しおった…!



これは、何を意味しているのか。

高瀬は桃李に何を思っているのか。

悟ってしまった…!




「あ、あと!」

高瀬は自分の制服のポケットから、ケータイを取り出す。




「ら、LINE…交換してもらえませんか…?」

「え、えぇっ!」




これは、さすがの桃李も、何を意味しているか、気付いただろう。

どうしていいかわからず、固まっている。




まさか…まさかの事態だ。

高瀬、まさか桃李を…!



『っていうか、敵は他にもいっぱいいるだろうから、そっちを注意した方がいいんじゃない?』



松嶋の言葉がふと、頭を過る。



『外には七人の敵がいると言うでしょ?』



ホントだ。

敵は他にも、いた…!



ふと、松嶋の方を振り返る。

理人と不自然に並んで、ニヤニヤとしながらこっちを見ていた。

…何?松嶋?

敵じゃないってそういうこと?

おまえは、理人と同じポジションだってこと?!

いや、ある意味、敵でしょうよ!




ここは、時既に戦の場だった。








baKed.3 eNd
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