王子様とブーランジェール
「…ゴリラゴリラと連発しやがって貴様ぁっ!竜堂っ!」
開かないドアがバコン!と揺れた。
蹴りを入れたなこのクソゴリラ!
「わぁーおっかないーおっかないー。桃李がビビってますよー?暴力的な人は苦手ですからねー?」
「何っ!…か、神田さん、すみませんでした!」
高瀬、正直すぎるな。
当の桃李は、ポカンとしてこの光景を見てるだけだ。
ドアの向こうの高瀬が静かになる。
ドア自体も音をたてることなく静かになった。
「竜堂、貴様!覚えてろよ!…神田さん、また来ます!」
「…ゴリラのことなんか、いちいち覚えてられるか!このゴリラ!」
そして、気配がなくなった。
本当に帰ったな。やれやれ。
「夏輝…ごめんね」
戦いを終え、ドアの突っ掛え棒をはずしていると、桃李がやってきた。
「…別に」
素っ気ない返事をしたが、桃李はうつむいていた。
何も言わないで黙っている。
「…どうしたんだ?」
「本当にごめんね。私…男の人にこんなこと言われるの初めてで、どうしていいかわからなくて…」
知ってる。
もし、そんなやついたら、俺が殺してるはず。
「…おまえはどうしたいの?」
「…え?」
「イヤなのか、いいのか、どっちだ?」
「そ、それは…でも、センパイ優しくしてくれるし…」
はぁ?優しくしてくれる?
アイツは、おまえに手を上げようとしたゴリラだぞ?
不覚にも、ちょっとイラッとしてしまった。
「…どっちかはっきりしろよ!おまえがどうしたいのか、ちゃんと言わないから、いつまでもしつこく来るんだろうが!!」
「え…」
カッとなって怒鳴り散らした後に、気付いた。
また…またしても、やってしまった。
「………」
桃李は、ますますうつむき、無言となった。
あ…あぁっ!
これは、相当まずい!
いつもの『ごめんなさい、夏輝!』がない!
まずいぞ!
これをフォローしてくれる理人も今はいない!
わかってる。
わかってたはずだ。
桃李が、どうしたらいいのかわかってないことなんて。
なのに、俺は…!
「あ、あの…」
すると、教室のドアがガラッと勢いよく開いた。
理人か?
と、思って注目したが。
そこには、見たことのない女子が立っていた。
「桃李、いるー?」