王子様とブーランジェール




「…でも、いつまでも教室に高瀬センパイ来たら、夏輝に迷惑かける…」



そう言って、桃李はうつむいている。



(…え)



あ…そうなのか。



『…どっちかはっきりしろよ!』



俺があんなこと、言ったから…。



『おまえがどうしたいのか、ちゃんと言わないから、いつまでもしつこく来るんだろうが!!』



気にしていたのか…?




俺は、あの事に関しては『傷つけた』とか『謝らなくては』とか考えていた。

だけど、桃李は桃李で、ちゃんと考えてくれていたのか…。



そうか…そうだったのか。



ちょっと胸が熱くなる。

桃李はいつもあんな感じだから。

俺に、いつもよりこっぴどく怒られたぐらいにしか思ってないと、思っていた。

まさか、俺の話をちゃんと聞いて覚えていて、考えてくれているとは思わなかった…。



そして、高瀬に面と向かって話をする、だなんて。

桃李にしたら、相当の勇気を振り絞ってると思う。

あんなゴリラみたいな(…)恐い男を目の前にして、はっきりと話をするだなんて、今までの桃李からしたら、絶対にあり得ない。




真っ直ぐに、素直のまま。

少しの勇気を持つようになった。



これは…まさしく、変化ともいえる。



(………)



良いんだか、悪いんだか。



「…迷惑だなんて、思ってねえよ」

「…え?」



桃李が顔を上げる。

バッと上げたので、少しビクッとしてしまった。

そして、また俺の顔をじっと見ている。

こんな至近距離で、見つめないでくれ…。



「…俺が、勝手に高瀬にケンカ売ってんの!女に手を上げたクソヤローだしな!ゴリラだから仕方がないけどな。ゴリラだから」

「あ…うん」

「…あ。ひょっとしたら『ゴリラみたいな顔の人とはデート出来ません!』なんて言ったら、また叩かれるかもなぁ?」

「…えっ!」

ビクッとして、ちょっと怯えた表情をしている。

…いや、ホント。あり得ない話でもないぞ。

逆上して、女に手を挙げる。あり得なくもない。

ゴリラだから仕方がない。



「でも…もしそんなことになったら、また間に入ってケンカしてやるよ?」

「やややや。そんなひどいこと、言わないよ」

「あははは。いや、言ってみて?むしろ言ってみて。『ゴリラは恐いですぅー』ってさ」

「もう…」



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