王子様とブーランジェール




すると、少しきょとんとしたのち。

辺りをキョロキョロと見回す。



そして、体がビクッと震えていた。


「あら。やだぁー」


そう言って、彼女は並んだ小便器をじっと見つめていた。



小便器を見て、初めてここが男子トイレだと気付いた風?

入って来たときに、違和感なかったのか?

俺の話も聞いていなかったということになる。

いったい何なんだこの人。



彼女は、ようやく女子トイレに引き返した。

やれやれ。

ちょっと疲れたぞ。



トイレから出たはいいが、なかなか体育館の中に入れず。

体育館の手前で、ちょっと足が止まってしまう。

少しそこらをうろうろしてしまった。

俺って、こんなにもチキンだったか…?



すると、気配を感じた。



「あ…」



先ほどの超美人だ。

こっちを見て、頭を下げている。

そういや。

なぜ、一般の人が校内に?

今日は前夜祭。

一般の人向けの公開はしていないはず。



すると、その超美人が俺のところにやってきた。



「あの、先程はすみません。トイレが変わっていたので、よくわからなくて…」

「………」



トイレが変わっていたので、よくわからなかった?

確かに、この体育館側のトイレは、俺達が入学する寸前の春休みに改築工事が行われたと聞いている。

だけど。だけど、そんな理由で男子トイレと女子トイレ、間違える?

注意喚起をしたにも関わらず、間違える?

そんな問題じゃねえだろ?

それはあんたがバカ…いや、いけない。

初対面の人を、こんなバカ呼ばわりしてはいけない。



何もコメント出来ないでいると、お互い無言になってしまった。

この人、何でここにいるの?

誰か待ってんのかな…。

見るからに年上だ。

俺の姉ちゃんと同じくらい。19、20ぐらい。

私服もおしゃれだ。流行最先端みたいな。

ロングカーディガンに、カーキのワイドパンツで。

メイクも濃い目で、まるでアパレル店員の特有のオーラを出している。

うちの姉ちゃんみたいな。



すると、またその女性が話始めた。



「あの…」

「はい?」

「小便器、綺麗ですね。ピカピカ」

「………」


また、コメントに困る話を…!




この人。桃李と同じ臭いがする。

ガチバカっていう臭い…!




「…あの、誰か待ってるんですか?」

「え?」

意を決して、質問することにした。

「今日は前夜祭で一般の方は入れないことになってるんですけど…誰かを待ってるんですか?」

「あ、はい。そうです」

そうだったのか…。


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