王子様とブーランジェール

戦って、勝ち取れ

『ここで、思う存分、殺し合え！！』




かつて、14年前に『星天四天王』と呼ばれていた連中が、前夜祭に焼き肉食べ放題チケットを取り合ってケンカをするという、『四天王デスマッチ』というものが開催されていた。

しかし、今年。

14年の時を経て、狭山の手に寄り。

今夜、リバイバル。



だが、しかし。



参加選手が…高瀬と、俺！



事態は、とんでもない事になっていた。



…と、思っているのは、俺だけのようだ。





「うおぉぉーっ！すげえぞこれ！」

「空手対キックボクシング？！」

「マジ燃えてくんだけど！」



観客の歓声、特に男子の雄叫びがすごい。

うるさすぎて、自分の声が聞こえづらいほどの声量だ。

ただのＤＫのケンカになぜそこまで盛り上がれるんだ。

有名な格闘選手が試合をするワケじゃないんだぞ。



目の前にそびえる、ケージ。

もう準備万端で、中で待っている高瀬。

未知のイベントに沸き上がる観客生徒。

俺に不敵な視線を送る狭山。



カタチも雰囲気もすっかり出来上がっている会場に、ここで背を向けるワケにはいかない状況になっている。

ケージの前に立つ俺を見ている観客の視線が痛い。



もう、覚悟を決めるしかなかった。






『…おいおいおーい！竜堂、早くしろよ！』



マイクを通した狭山の声が響いていた。



「ちっ…ちょっと待て！」

『バカめ！公式試合みてえにヘッドギアもパンチンググローブもつけさせねえからなぁ？あぁ？ケンカだぞ？素手できやがれコラァ！』



突然降ってきたケンカ試合に、準備が出来ておらず、ケージの外でバタバタする。

素手は絶対嫌だ。

インターハイ前にもしものケガは絶対嫌だ。

慌てて、手背から手首にかけて、テーピングを巻く。

「…潤さん、ハサミ！ここ切って！」

「はい。バンテージじゃなくていいの？」

「オープンフィンガーだからテーピングでいい」



足にも念のためテーピングをと思い、ケージに背に腰掛けて靴と靴下を脱ぐ。

すると、理人が足を覗きこんできた。

「うわっ。何その爪」

「えっ…」



靴下を脱いで現れた足の爪。

黒のペディキュアが…。

ご丁寧に、和柄のワンポイントが施されている。



し、しまった…！