王子様とブーランジェール




「全員自分の席につけよー!出席とるぞ!」



担任の男性教諭、仙道先生が教卓につくと共に、教室内は一瞬足音で騒がしくなり、みんな綺麗に着席した。

俺の周りにいた咲哉や陣太も速やかに自分の席に戻っている。



しかし、綺麗に全員が着席する中、一つだけ空席があった。



本当に、一つだけだから目立つ。

アイツの席…。



仙道先生も気付いたのか、その空席を見て軽くうなだれる。



「神田…また遅刻か」



その声と同時に、廊下の向こうから、足音がドタバタと聞こえ始める。




足音が早い…相当ダッシュしてんな。

そして、足音が近づいてくる。

と、思いきや教室のドアがバターン!と開いた。

ど、ドタバタうるせえ。



「せ、せ、仙道先生っ!お、お、遅れてごめんなさいぃっ!わ、わ、私、遅刻ですかっ!」



相当ダッシュしてきたのだろう。

あまりにも息をきらしていて、肩が上下に動いている。



う、うわっ。



この1年3組全員がきっとドン引きしているに違いない。

その姿。



「か、神田…おはよう」



アイツに挨拶をした仙道先生もビックリした表情だ。

ヤツのその振り乱れた、ライオン丸のような天パのボサボサヘアーと、思いっきりズレまくった眼鏡に。



教室内、唖然…。




「あ、あ!…お、お、おはようございます仙道先生ぃっ!」

そう言って、ペコペコと何回も頭を下げている。

その間に手に持っていたケータイをガシャン!と床に落とした。

「ああぁぁ…」と、声をあげながら慌てて拾っている。

先生も唖然。



「神田…今日も遅刻だな。今日も早起きしてパン焼いてたのか?」

「あ、せ、せ、先生ごめんなさいぃっ!き、今日もパン焼いた後、思わず寝ちゃ、寝ちゃ、寝ちゃいまして!く、く、クロワッサン!し、し、新作のし、し、塩クロワッサン焼い、焼い、焼いて…」

「神田、少し落ち着け」

「え、先生っ!…今日も遅刻ですか…?」

「うん、遅刻」

「ええーっ!」

一瞬、ヤツの瞳がウルッとした。

また泣きそうになってる。



ったく…。



「神田、もういいから席につけ。今日で遅刻は15回目。入学してからまだ2ヶ月弱なのにな」

「はぁ…」

「ちなみに、30回目には生徒指導主任の糸田先生が記念にプレゼントくれるって」

「はぁ…」

「で、眼鏡ずれてるぞ。直せ」

「はい…」

2回目のはぁ…は、かなりずーんとしたものだった。



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