王子様とブーランジェール




き、聞きたいことって?



…とは、恐怖のあまり声に出せず。

口をパクパクさせて、ただ、震えるしかなかった。

そんな桃李をさておいて、狭山は自分のケータイをいじっている。

『お、あったあった』

そして、画面を桃李に突きつけた。



『これ、おまえんちのパン屋か?』



画面には。
木製のお皿に乗っかったクロワッサンとくるみパン。
チェックのランチマットが敷かれていて。
横には、グラスに入ったハーブティー。



『…あ』



全て、見覚えのあるものだった。



『これ、うちのイートインスペースです』



よく見ると、それはインスタントグラムという、写真投稿SNSの写真だった。

写真の下にはコメントが。


『今日はオフなので、大好きなパン屋さんでティータイムです。ここのクロワッサンは自分の中でナンバーワンです✨』



桃李の返答を聞いて、狭山は『フッフッフッ…』と、不気味に笑う。

まるで、世界征服を企んでるかのようだったという。



『やっと見つけたぞバカめ!…神田、この投稿はな?我らがご主人、先代ミスター星天高校の投稿なのだ!』

『み、ミスターさん?だ、誰ですかそれ…』

『先代のミスターはな?世界の美しさを超越した、神に代わるべき尊いお方だ。一般の雑魚どもじゃ、手も足も出まい…』

『はぁ…』

『…で、おひとついくらだ?』

『え?』

『…神の舌を唸らせたクロワッサンは!神がナンバーワンと語ったクロワッサンは、おひとついくらだって聞いてんだよ!』




と、ようするに。


先代ミスターは、パンダフルの常連らしい。

SNSに投稿されていた、ミスターお気に入りのクロワッサンをどうしても食べたい。



『金ならいくらでもあるぞ?店にあるありったけのクロワッサンを全部私に売れ!』



と、いうことだった。



しかし、そこでパン職人の血が騒いでしまったのだろうか。

ブーランジェール、スイッチオン。



『…今からお店に行っても、時間的に、もう残り物の時間のたったクロワッサンしかありません。クロワッサンは人気だから、残ってるかどうか。今から生地を急いで準備しても、夜中になってしまいます』



ここでひとつ、桃李が提案してしまったのである。



『…ですので、明日の朝、私がクロワッサンを焼いて学校に持ってきます。クロワッサンは焼きたての方が断然美味しいです。あ、私のクロワッサンの腕前は保証します。お店にも出してますから』



…てなわけで、明朝、狭山たちに焼きたてのクロワッサンを持っていくことに!



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