王子様とブーランジェール




頬の温かくて柔らかい感触を、指先で感じる。

恥ずかしくなってしまってるんだけど、手を離すどころが、指先で更に撫でてしまった。

やわらか…。



「おまえさぁ…」

「な、な、なんでしょう…?」

「…本当に痩せた?」

「えっ!」



そして、指先に触れている頬を、つまんでおもいっきりグッと引っ張る。



「…いいぃぃっ!!」



ぷにっとした感触と共に、桃李の汚い悲鳴が響いた。



…普通、頬を触るとかここまでやったら、もう顔を近付けてキスするしかないと、思うだろ?

だが、意識して行動に入ると、一気に照れが吹き出してしまい。

こんな結果に…。

俺の意気地無し…。



「いひゃい!いひゃいーっ!」

自分のつままれた頬から引き剥がそうと、両手で俺の手を力強く掴んで引っ張っている。

それ、逆効果じゃね?

「わかったわかった」

ちょっと可哀想なので、すぐに離してやった。

気持ち良かったんだけどな…。

「…で、痩せれたのか?」

「うん、2キロ。お腹少しへこんだよ」

「ふーん。結果にコミットしたか」



しかし。

頬っぺた離してやったのに。

今度は、桃李が俺の右手を掴んだままでいた。

手の甲と手首をがっちりと掴んだままでいる。

掴んでいるの、忘れてる?

いつ離してくれんの?

ミイラ取りがミイラになっている。



ああぁぁ…。

何でこんなことばかり…。



手の温度を感じると、またしても顔が熱くなってきた。

いつ離してくれんだよ!

すると、そのままお互い目が合ってしまう。

更に顔が熱くなってきた。



どうしていいかわからず、しばらく見つめていると、桃李が「ん?何?」と、不思議そうに見てくる。

何って…腕、掴んでるの本当に忘れてる?

ネコがベロしまい忘れるのと同じレベル?



おまえは、バカだよ。

でも、この手を振り払わないでそのまま掴まれている俺も、バカだな。下心丸出しで。

バカ同士。



…そんな、バカな俺が、勇気を振り絞る必要のない程度の言葉を、めちゃくちゃ勇気を振り絞って、言う。




「お誕生日、ありがとうございました…」




とてもテンパっていて、『お誕生日』の後に『プレゼント』を付けるのを忘れた。

何だよこれ…!



しかし、更なるバカは、そんな俺のミスには気付いておらず。

えへへ…と、緩んだ笑顔を見せる。



「お誕生日、おめでとう」








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